終電のアナウンスが、静まり返った駅構内に響いていた。
ネオンの光が遠ざかり、人影のないホームに、私はひとり残っていた。
今日は残業続きで、気づけば終電を逃していた。スマホの電池も切れ、タクシー乗り場まで歩く気力もない。
ベンチに腰を下ろしてため息をついたそのとき、背後から優しい声がした。
「……まだ、ここにいたんだね。」
振り向くと、そこに立っていたのは、三年前に別れた恋人――圭だった。
スーツ姿の彼は少し痩せて、けれどあの頃と同じ、どこか寂しげな目をしていた。
「偶然だな。俺も今、帰りの電車逃してさ。」
偶然? それとも――運命のいたずら?
胸の奥で、止まっていた時計が、ゆっくりと動き出す音がした。
ホームの風が、私の髪を揺らす。
あの頃と同じ距離で、彼が微笑んだ。
「……少し、話さない? 駅の外、まだ明かりのついてる喫茶店があるんだ。」
私の心臓が、小さく跳ねた。
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