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午前零時、秘密の教室で


僕は息を殺して、古い時計台の下を通り抜けた。


ここは、県立白鷺高等学校。昼間はどこにでもある、退屈で平凡な学び舎だ。だけど、この時間になると、すべてが静止した美術館のように、奇妙なほど厳かで神聖な空気に包まれる。

https://youtu.be/ua4ExqpcWrk


僕は、教員用の非常階段を一段飛ばしで駆け上がった。靴音は、湿気を吸った校舎の床に鈍く響いて、まるでこの場にいることを誰かに告げているみたいだった。心臓がうるさい。この鼓動が、誰かに聞かれやしないかと、僕は何度も立ち止まっては耳を澄ませた。


三階。目的の場所は、誰も使わない旧校舎の奥にある、廃止された美術準備室だ。昼間、美術部の備品が詰まったその部屋は、埃っぽくてじめじめしていて、どこか寂しい雰囲気を漂わせている。だが、今夜は違う。


鍵は、使われないまま鍵穴に刺さったままだ。僕はそっと、古い真鍮の鍵を回す。ギィ、と耳障りな金属音がして、重い扉が内側へ開いた。


照明は点けない。窓の外からは、遠い街灯のオレンジ色の光が、わずかに室内に差し込んでいるだけだ。その薄暗がりの中、僕は一人の人影を探す。


壁際に置かれた石膏像の影。キャンバスの裏。イーゼルが立てられた隅。


そして、古い美術教師用のデスクの前に、彼女はいた。


制服のブレザーは着ていない。白いブラウスに、いつもより少しタイトに見えるスカート姿だ。細い首筋から背中にかけて流れる髪が、窓からの月明かりを受けて、かすかに光っている。


僕が扉を閉める音に気づき、彼女はゆっくりと振り返った。


「遅いよ、ハルト」


彼女の声は、昼間の明るい校舎で聞くそれとは、まったく違っていた。ひどく囁くようで、湿っていて、少し震えている。そして、どこか安心したような響きも含んでいた。


「ごめん、警備員に見つかりそうになって」


僕はそう答えるのが精一杯だった。本当は、ここに来るまでの数時間が、あまりにも長く、そしてあまりにも早く過ぎていったせいで、ただ戸惑っていただけだ。


僕たちのこの「会合」が始まったのは、たった二週間前。この美術準備室で、僕の抱える、誰にも言えない秘密を彼女に打ち明けてしまったのがきっかけだった。


僕はただ、昼間の世界とは違う、もう一つの現実を、彼女と共有したかった。


彼女はデスクに軽く腰掛けたまま、僕に向かって、人差し指を口元に当てた。


「シーッ。秘密の時間は、まだ終わってないよ」


その仕草が、まるで僕たちの間に流れる空気に魔法をかけたようだった。昼間の僕は優等生、彼女はただのクラスメイト。だが、この午前零時の教室では、僕たちは共犯者だった。


静寂だけが響く中、僕は彼女に向かって一歩、踏み出した。


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